はじめての知的財産権
 こちらのページでは、知的財産権についてあまりよくわからない方のために、 専門用語をやさしく言い換えながら、制度の概要などについて説明しています。 あくまで『原則』の理解を主目的としていますので、一部制度が複雑に感じられるような例外については、 こちらで判断して省いているものがあります。
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1. 商標の保護対象は商品やサービスのどの部分か?
 商標とは、①「文字・図形・記号・立体的形状・色彩・音など(その結合を含む)」であって ②「事業者」が ③「自分の商品やサービスと他人の商品やサービスを区別するために使用する」ものを指します。 商標として認められる可能性があるものの範囲はとても広いため、一つの商品やサービスの中に一つだけではありません。
商標
 こちらの図を使ってさらに説明すると、まず、① に該当しそうなものを挙げていきます。 上部左側に「KumaPat Company」、右側に「クマのロゴマーク」、 中央に商品名「Lo❤︎e POTATE」があります。 そして、その下に「ポテトチップス コンソメ味」と記載されています。 さらに、パッケージの「褐色の色」、「曲線と楕円のデザイン」も当てはまりそうです。 次に②ですが、商売を行う者であるかはここではわかりません。 ③は「他人との区別」がポイントになります。 その中で、企業名、ロゴマーク、商品名は他人と区別するために使用していると言えます。 次に、色や背景デザインも同じく区別するためと言えます。 一方で、「ポテトチップス コンソメ味」の記載は、特殊なデザインを施されているものではなく、 単なる味の説明書きであり、原則的には③に該当しません。

2. 「商標」+「商品・サービス(役務)」で保護される
 商標法上保護される商標は、企業名やマークのみを保護するのではなく、 使用する商品やサービス(役務)とセットで保護されます。上記の例で言うと、 商品「ポテトチップス」+商標「Lo❤︎e POTATE」、 (その企業がお菓子メーカーであれば)商品「菓子」+商標「KumaPat Company」などです。 そのため、どんな商品やサービスに使用するのか(将来したいのか)を商標登録出願をする前に、 しっかり検討しておくことが重要です。

3. 「商標」を登録すると何が良いの?
① 自分の商標として使用し続けることができる
 例えば、このポテトチップスがとても美味しく大評判になり、 その後、この会社は同じ企業名の表記と同じロゴを使用した 「LO❤︎e Chocolate」を発売したとします。すると、 既に「LO❤︎e POTATE」でお客さんから良い評判(=信用)を得ているため、 この商品も美味しいのではないかと期待されます。そして新商品を出す度に同じ表記と同じロゴを使い、 それらの商品の安全性や品質の高さが認められ続けることで、表記やロゴの価値も高まります。 これを皆さんがわかりやすい言葉で言い換えると「ブランド」です。 この価値があるブランドを「商標」として登録することで、自分の商標として使用し続けることができます。

② その「商標」の登録した商品・サービスについて排他的独占権がある
 「排他的」とは読んで文字のごとく他を排除することです。 登録を受けた商品・サービスまたは類似する商品やサービスについて、登録を受けた商標やこれに類似する商標を使用している人に対して、 「使用をやめなさい」と言うことができます。ここのポイントは類似する範囲の使用をやめさせられることです。 自分の商標と同じ商標が登録されていないからと言って使用をしていたら、 他の人から登録商標に類似することを理由に使用を差し止められてしまうことがあり得てしまいます。 そのような事態を防ぐためにも商標を登録するメリットがあります。

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 商標法では、商標登録ができる要件、できない要件について条文によって規定されています。 (商標法第3条、第4条をネットなどで検索して調べていただくとより詳しく知ることができます。) これらの規定を大まかに理解するために、大きく3つの条件を覚えておくと良いと思います。

1. 「自分の商品やサービス」と「他人の商品やサービス」の区別がつかない
 例えば、商品「ポテトチップス」に普通の文字で「ポテトチップス」と書かれた商標は、 誰のポテトチップスなのかがわからないため、商標登録は受けられません。 その一方で、商品「携帯電話」に同じように商標「ポテトチップス」がつけられていたら、 区別がつきそうですよね。すると、この条件は満たしているといえます。 また、普通の文字ではなく、特徴的なデザイン文字にすると「ポテトチップス」と書かれた商標であっても、 この条件を満たすことができるといえます。
法文上では、
①「商品又は役務(サービス)の普通名称のみを普通に用いられる方法で表示する商標」
②「商品又は役務(サービス)について(※)慣用されている商標」
③「単に商品の産地、販売地、品質、その他の特徴等、又は、 役務(サービス)の提供の場所、質、その他の特徴等のみを普通に用いられる方法で表示する商標」
④「ありふれた氏又は名称のみを普通に用いられる方法で表示する商標」
⑤「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章(マーク)のみからなる商標」
⑥「その他何人かの業務に係る商品又は役務であるかを認識することができない商標」
と規定されています。
 この中で①・②・③は、商標を使用する商品やサービス(役務)との関係性が重要なポイントになります。
※「慣用されている商標」とは、もともとは他人の商品やサービスと区別することができた商標が、 同種類の商品やサービスについて、同業者間で一般的に使用されるようになり、 自己の商品やサービスと他人の商品やサービスとを区別することができなくなった商標のことです。
<例> 商品「清酒」に使用する商標として「正宗」の文字 など

2. 公共の機関の標章(マーク)と紛らわしい、品質の誤認を生ずるなど、公益性に反する
 日本や外国の国旗や国際機関や国内の公共機関の標章(マーク)など、公益を目的として使用されているため、 これらに紛らわしい商標が登録されると、私たちの生活に支障をきたしたり、国際問題に発展したりする恐れがあります。 そのため、原則的に登録を受けることができません。また、差別的な文言や卑猥な言葉、他の法律で使用が禁止されているもの、 商品の品質やサービス(役務)の質について誤認を生じる恐れがある商標についても登録が受けられません。
法文上では、
①「国旗、菊花紋章、勲章又は外国の国旗と同一又は類似の商標」
②「外国、国際機関の紋章、標章(マーク)等であって経済産業大臣が指定するもの、 白地 赤十字の標章(マーク)又は赤十字の名称と同一又は類似の商標」
③「国、地方公共団体、公益事業等を表示する著名な標章(マーク)と同一又は類似の商標」
④「公の秩序、善良な風俗を害するおそれがある商標」
⑤「商品の品質又は役務(サービス)の質の誤認を生じさせるおそれのある商標」
⑥「その他、博覧会の賞と同一又は類似の商標、 商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」
などが規定されています。

3. 他人の登録商標、または、登録・未登録関係なく周知商標や著名商標等と紛らわしい
 商標登録の何が良いのかについて上記したように、登録商標にはその「商標」の登録した商品・サービスについて、 排他的独占権が認められ、他人による類似の範囲についての使用を辞めさせられることから、 登録商標と「類似する範囲」の商標は登録を受けられません。また、登録されていてもいなくても、 他人が使用する「ある程度知られた」商標や、 他人の氏名・名称などと紛らわしい商標は、原則的に登録が受けられません。 この「類似するか否か」の判断や「どの程度知られているか」などの判断の指標は、 商標審査基準によって示されていますが、いくつかの判断材料に基づき総合的に判断されるため、 明確な線引きが難しいです。
法文上では、
①「他人の氏名、名称又は著名な芸名、略称等を含む商標」
②「他人の周知商標と同一又は類似の商標であって、同一又は類似の商品・役務に使用するもの」
③「他人の登録商標と同一又は類似の商標であって、同一又は類似の指定商品・役務に使用するもの」
④「他人の業務に係る商品又は役務(サービス)と混同を生ずるおそれのある商標」
⑤「他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用する商標」
⑥「他人の登録防護標章と同一の商標、種苗法で 登録された品種の名称と同一又は類似の商標、 真正な産地を表示しないぶどう酒又は蒸留酒の産地の表示を含む商標」
などが規定されています。
※ 3.に記載された要件の判断のタイミングについては、出願時及び査定時の双方で該当するか否か判断される場合と、 査定時のみに該当するか否かで判断される場合があります。 (双方で判断される要件は、①、②、④、⑤と⑥のぶどう酒等の産地の表示です。)
 また、1から3までの要件のうち、例外的に登録が受けられる場合もありますので、 登録が受けられる可能性については、お気軽にご相談ください。


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 ① 出願から登録までの流れについて
商標登録出願
 こちらの図にはありませんが、出願前に事前調査を行う必要があります。 わが国では、他人によって同一又は類似の商標であって、かつ、同一又は類似の指定商品等が先に登録されている場合には、 登録を受けることができないという「先願主義」が採用されています。 また、これを無断で使用すると商標権の侵害となる可能性があります。そのため、出願にあたって、このような他の出願や登録があるか、 知っておくことが大切です。
 出願後の流れは、左図にあるように審査が行われ、 登録要件を満たしていない場合には、拒絶査定がなされます。登録要件を満たしている場合には、登録査定後、 登録料の納付がなされると、設定登録されます。
 ② 存続期間や更新登録について

 特許権や意匠権は出願日から存続期間が計算されますが、商標権は登録査定後、登録料の納付を行い、 設定登録がなされた日を基準として10年間存続します。また、下図のように存続期間が終了する半年前から、 「更新登録申請」という、さらに10年間存続期間を延長する旨の申請を行うことができるため、 更新を続けることで、その権利とずっと保有することが可能です。
存続期間・更新
 更新登録申請は申請と同時に更新登録料を支払うことにより行います。 もし、満了日までに更新登録申請ができなかった場合でも、満了日から6ヶ月後までの間は行うことが可能です。 但し、更新登録料を倍額支払う「追納」を行う必要があることに注意してください。 10年後の支払いと聞くと、そのこと自体を忘れてしまうような不安があると思いますが、 弁理士事務所において、登録を受けた商標の更新期間を管理 (例えば、満了日6ヶ月前にメールや書面でのご連絡)を行なうことは業務の一つですので、 個人で出願する場合と比較して、弁理士事務所に依頼するメリットがこの点であると言えます。